2022年 個人的年間ベストアルバム
特に誰からも需要のない、超個人的な年間ベストを今年もまとめてみる。ほぼ自分の為の備忘録の役割しか果たしていないが。
自分の中で、聞いている音楽に大きな変化があったのが今年だった。
・ノーウェーブなどの無機質な音楽であったり、空虚さや虚脱感を覚えるような音楽を非常に好むようになった。エモをはじめとするオルタナティブロックをそこまでは聞かなった。(と言っても、根本的にはオルタナティブロックが好きなので、現行の音楽もそれなりには楽しんだ。)
・とにかく、日本のインディーミュージックを聞くことに強いこだわりを持っていた。驚くほど、洋楽を聴かなくなった。たとえば今年は海外アーティストだと、the 1975、Black Midi、Arctic Monkeys といったバンドの新譜がでたわけだが、まるで聞く気が沸かなかった。羊文学でさえ、今年新譜を出したにもかかわらず、まるで聞いていなかった。
それほどたくさんのライブを観ているわけではない。(週に1回~2回)
だが、なんというか、身近に感じられる音楽をとにかく摂取したいと思い続けたような一年になった気がした。
ということで、
今年の年間ベストとしてまとめるこの文章で記載するアルバムは、
なんと全てが日本のアーティスト。しかもインディーズ。
我ながら、どうしてこうなった・・・。
ではいこう。
第3位 Procyon 「Datsu」
神戸のミュージシャン。シンセを多用したカラフルなサイケデリックロック。
関西のサイケといえば、今年から東京に活動場所を移したBrother Sun Sister Moon がいるが、それと同じ系譜としてFile Underの山田さんから「もうすぐアルバムがでるよ」と教えてもらって、リリースされてすぐにまずはサブスクで聴いて、大興奮でCDを買った。
バンドの構成が3ピースでシンプルだからなのか、シンセをものすごく前に押し出してあるように感じられるし、それが浮遊する感覚をより強めてくる。
このアルバムが素晴らしいのは、#2の「Fall」、#4の「Unreal」といったチルアウトするような曲と、#6の「Marble」で聴くことができるレイドバックしてるような部分も入っていることだ。全体で聴いても、「Intro」、「Interlude」というものを配置していて、構成もすごく練られていると感じられる。その2つを含めて全7曲で30分にまとめたコンパクトさも完璧。
第2位 くだらない1日 「rebound」
あまりこういうことを言いたくないが、このアルバムがない年間ベストは意味がない。そう言い切れるくらいにこのアルバムは偉大だと思う。
客観的に見た影響力とクオリティで言えば、間違いなく2022年の洋楽・邦楽を含めて、ダントツのナンバー1になる。
レーベル、ungulatesの2022年が楽しみだ、ということを音楽だいすきクラブの2021年ベストアルバムの記事が出るときにdowntのアルバムのコメント内で書いた。そして2022年は完全にungulatesの年になったと言える。
レーベル内では、downtがとにかく話題を集める存在だったが、このアルバムが予告もなく急に登場し、圧倒的なエモーションとクオリティを見せつけ、そしてその衝撃から落ち着く暇を与えないよう、くだらない1日は何本もライブ畳みかけた。一気に「ungulates というレーベル」として、昨年からさらなる注目を集めるきっかけを作ったのは間違いなく、くだらない1日のこのアルバムがターニングポイントだった。
その後、ungulates としては、downtが新作「sakana」をリリースしてツアーとフジロック出演、とがるの傑作「これで最期」のリリース、Curve の「till the end」の再発、など話題が尽きることが無かった。周辺のバンドも集めて、何本もライブをしていることがとにかく素晴らしい。
これだけのことができたのは、もう一度書くが、やはりくだらない1日の「rebound」がリリースされたということに全てつながってくると思う。
第1位の前に、番外編を発表する。
今年は、名古屋のライブハウス、鶴舞Daytripでライブ企画を2本することができた。
(店長、スタッフの皆さんに本当に感謝。)
両方とも、新譜をリリースしたバンドを中心にした企画だったので、その新譜をまとめて簡単に紹介したい。どれも今年よく聞いた。
・Hoach 5000 「FINAL」
TESTCARD RECORDSからカセットリリース。歪んだコードの音がずっと炸裂する、いわゆるベッドルーム的な、Noa Mal とかを思わせる音楽。5曲入りでたった13分。ただ、本当にそれだけかと思うくらい内容が濃い。シューゲイザーとポップの丁度の間にあるような、甘みと歪みを絶妙なバランスで混ぜているように思う。
・WBSBFK 「Grotesk」
名古屋の3ピースポストパンク・ノーウェーブバンド。新譜とライブを待ち望んでいたところに、今年の初めに突然のアルバムリリースを発表。更にタイトに、音数を絞ってきたのが凄い。無機質な音楽を好んでいる今、あらためて聞くとその完成度に驚かされる。リリースされたのが本当にうれしかった。
・pot-pourri 「Diary」
エクスペリメンタルフォークなのか、ノイズミュージックなのか、とにかくアヴァンギャルドなアルバム。前作「Classic」に比べて、もっとミニマルミュージック的になっていて、聞きやすい。個人的にはレディオヘッドみたいな実験性と、The Novembers にある妖艶さを一度に楽しめるアルバムだと感じている。
・HIJOSEN 「蛹は震える」
昨年、個人的ベストアルバム1位に選んだ前作「発露」に引き続き、TESTCARD RECORDSからリリース。声などのエフェクトが前作より抑えめで、2人だったところから6人態勢になったことを生かして「バンドとしての作品」を作った印象が強い。#2「歪んだ遊具」、#3「螺旋階段」、#6「風が吹いたらさようなら」は各パートの鋭さがよく出ていて、何度も聞いた。切れ味抜群のオルタナティブ・サイケデリックロックアルバム。
番外編は以上。
ライブイベントの企画は本当に楽しい。来年も何回かやりたい。
さて、第1位の発表
第1位 The Ratel 「Scan」
東京の5人組、The Ratel の1stアルバム。レコードとサブスクで発表なので、CD派である自分はフィジカルで手に入れることができず、サブスクで聴くしかないのが残念。
ただ、実に中毒性が高い。初めて聞いた時の衝撃をいまだに失ってない。
音楽としては、カンタベリーとかサイケとかプログレとかに近いのかもしれない。例えると、後期のゆらゆら帝国にフルート、ファゴットを加えて、もっと優雅に、それでいてもっと虚無にしたような。
聞いていると、とてつもない脱力感に襲われる。演奏自体はギターソロとかでかなり情熱的になったりする瞬間はいくらかある。だけど、曲全体、アルバム全体で聞いた時の冷たさ、統一感、そしてゆっくりと大きく揺さぶられるリズムと浮遊感がずっと失われない。
これも「もしライブ企画をするならオススメのバンドがある」ということでfile underで教えてもらった。(というか、この記事で挙げてるアルバム・ミュージシャンは全部file underの影響)最高すぎる。この文章を書きながらアルバムをまた繰り返して聞いているが、何度聞いても飽きない。来年は絶対にライブを観てみたいバンド。
以上が、2022年の超個人的な年間ベストだ。
<おわりに>
今年買った国内のインディーズ音楽で書いておきたいアルバムがまだいくつかあるので、それを追加でほんの軽く載せて、おわりにする。
・酩酊麻痺 「存在としての意思」
東京のツーピースバンド。それぞれが複数楽器をプレイする。ガレージっぽい激しいところも、虚無を感じるメロウなところも、非常に多くの要素が入り乱れた面白さがある。
・Switchblade 「ブルーマター」
神奈川のエモ。複数のメンバーがあのweaveから。Eastern Youthを思わせるような直球部分と、青春パンクのような青さもある爽やかさ。収録曲「夜に踊る」は何度も夜の散歩中に聞いた。
・SOM4LI 「ESCAPISM」
東京のノーウェーブバンド。Ms.MachineとStrip JointとKLONNSのメンバーも在籍している。冷たくてまっすぐだが、時折歌い方やフレーズにポップを感じる。それぞれのバンドの要素が混ざり合っているようで面白い。
・Aldo Van Eyck 「nada」
福岡のノイズパンクバンド。トランペットもいて、非常に複雑なポストパンクで、ブルースを感じる瞬間もある。つかみどころが難しい。とにかく聞いていて一癖も二癖もある面白い音楽。めちゃくちゃライブが見てみたい。
以上。
多分来年も、日本のインディーズばっかり聞く一年になりそうだ。
とりあえず、はやくまたライブ企画をやりたい。