Very the EMO REVIVAL (Holding Patterns 、登場)

 最近のオルタナティブロックの話題の新作といえば、The National「I AM EASY TO FIND」だったり、Vampire Weekend の「Father of the Bride」だったりだろう。あるいは初期ウィーザー感が全開なBilly Cobbの「zerwee」かも。(これは配信でしかまだないようだ)

 

 だが、あるアルバムがエモ好きの一部の人たちを騒がせていることは、上記の作品たちほどには知られていない。それは久しぶりの新作を発表したゲットアップキッズではない。

 

Holding Patterns のデビュー作「Endless」である。

 

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これがそのアルバムのジャケット

 

ストリーミングで聴くことができる。下は Apple Music のリンクだ。

 CDは日本でのみのリリース。

 リリース元はStiffslack。(店頭および通販でも購入可能。『stiffslack』で検索)

 

 Stiffslack からのリリースという時点で名盤なのは確定してるわけだ。(言い過ぎか。いやそんなことないだろう。)

 

 Holding Patterns はアメリカの3ピースロックバンドで、今作がデビュー作となる1stアルバムらしい。 

 

 

 で、内容はどんなのかというと、この記事のタイトル通り「まさにエモリバイバル」。

 

 エモリバイバルというと

①Algernon Cadwallader とか This Town Needs Guns (TTNG) とかみたいなマスロック的な要素がみえるタイプ

②Into it, Over it とか Annabel とかみたいな優しい響きのあるシンプルなオルタナ、な感じがするタイプ

 この2つのタイプが多い。

 

 良質なバンドは他にもたくさんいる。だが正直言って、僕はこうも思っていた。

 

 「ちょっと似たようなタイプのバンドが多くなってきてる」

 「単音を美しく紡ぐのは大好きだけど、それだけだと柔らかさしかない」

 「リバイバルとはいうが、90年代のエモ最盛期のバンドたちとは若干感じが違うというか、現代に合わせたバンドになってる」←これは良いところでもある

 

要約すると

 「もっと硬派で、他のリバイバルバンドとは一線を画し、90年代感もほしい」

 

 この要求に見事に応えたのが、このアルバムだ。

 

 ・Jawbox の「For Your Own Special Sweetheart」にあるような硬いギター

 ・Braid の「Frame & Canvas」にあるような力強く、ハードコアから生まれたようなドラム

 ・ポストロックを思わせるような曲も収録

 

 こういうことを一枚に詰め込んでくれた。近年のエモリバイバルバンドではかなり希少なタイプだと思う。

 だからこそ、現在エモ好きの人の間では話題になっている。多分だけどその人たちも、自分がさっき要約で書いたような要求というか本音が心の奥底に眠ってたんじゃないだろうか。

 

 概要はこれくらいにして、アルバムの曲を1つずつ簡単に紹介しよう。

 

1.「Glow」

 1分ほどのインストナンバー。ギターだけ。ゆったりとしたアルペジオがエモバンドらしい導入になる。

 

2.「At Speed」

 1曲目から流れるように、それでいて完全に引き裂くように、硬いギターリフがかき鳴らされるイントロでもう優勝。

 

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 ブリッジのザクザクした感じもたまらない。個人的には中盤のブレイクの連発が好き。ひたすらコードをかき鳴らして迫ってきておいて、ラストにアルペジオで綺麗に〆る展開もニクい。

 

3.「First Responder」

 だいたいエモのアルバムって3曲目か4曲目になんだかしっとりめの曲とか置かれがちで、この曲もそういう構成にのっとった・・・というのではなかった。徐々に盛り上がってくる感じはあったけど、途中でいきなり止まってからブレイクして、がっつり激しい音を聞かせてくれる。1曲で2度おいしいような曲。あと、とにかくこの曲はドラムが終始クール。

 

4.「Centered At Zero」

 ここまででは一番Jawboxみたいな感じがするナンバー。コーラスのハモリがカッコいい。これも途中から転調して重い感じになる。また最後にメロウになって、アウトロが次の曲の為の短いインストナンバーみたいになる。あっという間に感じる曲で、全然ダレる感じがしない。

 

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5.「No Accident」

 ここでまたサビの疾走感が気持ちいい曲。前半では一番ノリやすいかも。アウトロはゆったりめの曲が続いてたところで最後ががっちりカッコいい曲が5曲目にきてくれるから、アルバムを通してメリハリがあって楽しい。

 

6.「Pyre」

 ここから折り返し。インストナンバー。1曲目と同じ役割。だが、どこか不穏な感じと重苦しさの影がある。(その伏線がこのあと効いてくる)

 

7.「Dust」

 必殺ナンバー。6分以上ある(エモにしては)長めの曲だ。

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 ドラムが一番カッコいいのはこの曲。爽やかなのに一つ一つの音が重たい。ジャムをしているような中盤が最高。ずっと続けばいいのにいうところでやっぱり転調する。ハードコアを通過した古き良き90年代エモ、そういうものを一番感じられる曲じゃないだろうか。

 

8.「The Shot Will Ring」

 「Dust」と同じで、爽やかさと重さが同時にある曲。「Pyre」からのちょっと重い流れをここで決めてくるように感じる。アルペジオでつないでから一瞬止まって、ブレイクする中盤は「エモい」以外の何も感じられない。最後のシャウトの切なさがかき鳴らされるギターに溶けていくように染みる。

 

9.「Endless」

 アルバムタイトル曲。これがまた短いインストナンバーなのが面白い。ドラムソロでポストロックっぽい。

 

10.「House Fire」

 8分近くあるメロウな曲。Starmarketの名曲「Safe Bayou」を彷彿とさせる。静けに引き込まれる。そしてバーストする。ポストロックみたいに。

 

 『言い残すことはない。誰にも。結局は。』

 ( Nothing to say to anyone at all )

 

 この曲の歌詞の一節だ。かき鳴らされるギターの中で聞こえる歌詞だ。かっこよすぎる。そしてこの曲に非常に似合っている。コーラスが超気持ちいい。「エモい」という感情の渦に放り込まれて、うつむいたまま何も言えなくなる。そうなってしまう曲だ。まさに「エモ」。個人的今作のベストナンバー。

 

11.「Long Dead」

 前の曲でライブが終わって、アンコールがあったらこういう曲かな、というような構成を感じられる。ザクザクしたギターがイントロでまた聞ける。単音ひとつひとつを美しく紡ぐ中盤~アウトロはこのアルバムの後半の流れも汲んでると思う。

 

12.「Momentarily」

 ラストナンバー。とびきりに爽やかな序盤。徐々に重くなっていく。コーラスを腕をあげて叫びたくなるラスト。ハードコアからの影響をすごく感じられる。

 

 

 

 以上がこのアルバムの内容である。

 

 「最近のエモバンドはしらない」という昔のエモが好きな人にこそ知ってほしい。間違いなく2010年代エモの名盤になる。